■石岡地方の昔話 ・蛇の子を生んだ奴賀姫 むかし、竜神山の麓から約1里半(約6km)ほどいった片岡村(現石岡市片岡)に二人の兄妹が住んでいた。兄の名前は奴賀比古、妹は奴賀比唐ニいった。二人は家柄は良く不自由ない暮らしをしていた。妹の奴賀比唐ヘ年のころ28か29になる大変な美人であった。ある晩のこと、妹がひとりで部屋にいると、表戸をトントンと誰かが叩く音がしたので、奴賀比唐ェ表戸を開けると、そこには業平のような美男子が立っていた。一目見てうっとりとしてしまった奴賀比唐ナあったが、若者はだまって夕闇の中に消えていった。また次の夜も若者はやってきてはそのまま姿を消す日が続いていたが、ある晩ついにその若者は奴賀比唐ノ結婚を申し込んだ。奴賀比唐煌んで受け入れ、夫婦となり幸せな毎日を過ごしていた。そのうち奴賀比唐ヘ子供を生んだ。しかしその子を見た奴賀比唐ヘ気も失わんばかりに驚いてしまった。生まれた子は顔は人間で体が蛇だったのである。夫が蛇の化身であったことを知った奴賀比唐ヘ兄と相談し、その子は神の子供であろうと、家の中に祭壇を作って浮き杯の中にその子供を入れて供えたが、次の日には大きくなってしまったので、今度は瓮(ひらか:物を運ぶ盆)に入れ替えたが、またすぐに大きくなり、大きな甕(みか:酒を入れるかめ)に入れ替えたが、これも小さくなって、この家ではもうこれ以上おおきな器がなくなってしまった。そこで奴賀比唐ヘその子に、「そなたは神の子に違いないから、われわれ人間では養うことができない。どうか父のところへ行って下さい」と話すと、蛇の子はしばらく悲しんでいたが、ようやく決心したように「私は一人では父の所に行くことはできません。どうぞお供を一人つけて下さい」と言った。母は「この家は兄と私の二人きりであるので、その願いを聞くわけにはいきません」 と願いを退けた。その言葉を聴くと蛇の子は、むらむらと怒りが顔に現れ、口より炎のような真っ赤な舌を出したかとみるや、その色は緑色に変わり、伯父(兄)をめがけて襲いかかった。、驚いた奴賀比唐ヘ側にあった瓮を投げつけると、瓮がその蛇の子に当たり、神通力を失って死んでしまった。この蛇の子供を片岡部落の入口の塚に葬った。やがてその蛇の子は竜になって、竜神山の峯に昇りとどまったと言われている。 石岡の昔ばなし 仲田安夫著 ふるさと文庫 (1979年)
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