■石岡地方の昔話 ・美人に化けた新池の狐 むかし、小川街道は「原道」といって道の両側は松林でおおわれ、人通りも少ない寂しいところであった。県道沿いの兵崎地区の谷津(石岡中学校の少し先の反対側)に新池という池があった。ここに古い狐が棲んでいて、よく通行人を化かすと言われていた。明治初年のある夜、志筑(しずく)のある男が、小川への用事をすませての帰りにこの池の付近にさしかかった。すると、行く手に美しい一人の婦人があらわれたのでおもわずぞっとしたが、「旦那さま、どちらへお越しですか」とやさしく声をかけてきたので、思わず「はい、志筑へ帰るところです」とこたえてしまった。するとその婦人は「私も志筑へまいるところです。どうか一緒にお連れ下さい」と頼み込んできた。少し疑わしい気もしたが、こんな美しい婦人と一緒なら楽しい道中になると考えた男は、承知して仲良く二人で府中の町々を通り、宮下を過ぎたあたりまでやってきた。するとその婦人は「ごめんなさい」と言って、燈の見える一軒の家の中に入っていった。男は不審に思い垣根の外に立って中の様子をうかがっていた。しばらくすると、家人と挨拶する婦人の姿が障子に映り、続けてお土産の万頭(まんじゅう)の包みを開く姿が映った。男はこれは狐の化身との思いが強くなっていたので、「そりゃ、いけねえ!それは馬糞だよ」と叫んで、家の中に飛び込んだ。ところがそこは家ではなく池であった。このように新池は、幾人も尊い人命を奪ったので、一名「死池」とも呼ばれるようになったとのことである。 石岡の昔ばなし 仲田安夫著 ふるさと文庫 (1979年)
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