石岡地方の昔話                         

・爪書き阿弥陀

 高浜の町並みの中ほどに西光寺の阿弥陀堂(地元では西の観音といわれている)が建っている。お堂の中には観音像とともに、1mくらいの自然石が安置されている。これは、昔、親鸞上人が鹿島参拝の途中、この里にかかると腫れ物で苦しんでいる男がいた。上人は気の毒に思って「その苦痛を治してあげよう」といったが、男は頑固者で「放っておけ、俺は天命を待つばかりだ。汝がごときにこの苦痛が治せるはずがない」と最初は聞き入れなかった。上人は静かに念仏を唱えながら、その男の身体をなぜはじめた。すると不思議なことに痛みが引き、腫れ物もひいてきたので、男は驚いて、寝床より起き上がり、心より上人にわび、小麦の焼いたものを勧めたという。やがて上人が西浦から船に乗るために浦の岸辺にいくと、その男がやってきて「お蔭様で、現在の苦痛は治りましたが、未来の苦痛も取り除いて下さい」と懇願した。すると上人は「極楽往生を願うなら、常に念仏を唱えることだ。また、汝の家の庭にある石は阿弥陀如来が宿っているから、今後はそれを信心するがよい」と言って船に乗り込んだ。家に帰って男は庭の石を見てみると、そこには如来の尊像が浮彫りのように現れていたので、男はここに一堂を建てて、自ら「常願房」と称して上人に弟子入りしたのである。この故事によってこの阿弥陀堂は「爪書き阿弥陀(如来)」として親しまれている。西光寺は現在、住職もなく荒れてしまっているが、明治初年までは、今泉家(高浜の豪族)の内寺として修理保全が行われていたそうである。

   石岡の昔ばなし 仲田安夫著 ふるさと文庫 (1979年)
石岡の歴史   石岡市史編さん委員会   (1984年)
石岡の歴史と文化 石岡市歴史ボランティアの会 (1996年)

 

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